この世界は“色”で溢れている――ネタバレもありあっぷりけ桐月シナリオということで期待した本作、残念ながらこちらが(勝手に)設定したハードルは越えられなかった感じでした。ただ、それでも最低ラインは十分以上にクリアしているので、ある意味安心してプレイできる作品になっているとは思います。
キャラクター・ヒロインは素晴らしい。特に中核を為す桜花というキャラは本当に気に入りました。聡明で理性的、穏やかな美女。でも付き合った後はかなりのイチャコラというギャップ。みやびんこと有栖川みや美さんの新境地となったのではあるまいか。(私がエンカウントしていないだけで、こんな役をすでにやっているならごめんなさい)
他のヒロインも良いキャラばかりなのですが、ちょっと過去作の焼き直しっぽい印象を抱いてしまいました。まぁ普通のエロゲにありがちなキャラと言えばそうなのですが、例えば麗奈は莉都、雫は星華、汐音は真央、涼子は白雪とイメージの被る所が見受けられた感。私が神経質すぎるのかも知れませんが。言い出すと桜花もユキ、アル、タマ、銀子のハイブリッドと言えなくもないし、これは桐月さんの味なんだと納得しておきます。
物語について。
共通では日常でのちょっとした謎を桜花が安楽椅子探偵よろしく解いていく話を積み重ねて主人公、ヒロインと交流を持っていく様子が描かれます。人間のチマチマした悪意が共通してあるので軽いノリとは裏腹に結構重たい感じも受けますがこの一連はなかなか楽しくて好きです。
その後おおまかに3つの流れに分岐します。謎の石をめぐる桜花・汐音の流れ。そして学校の怪談(と鏡)にまつわる麗奈、雫の流れ。そしてどちらにも関わらない日常ルートといえる涼子。
このうち汐音と涼子のルートは本当に
桐月さんが書いたの?と思えるほどにペラッペラの薄味で酷かったです。クリア後、本当に何も残らない。涼子についてはまぁ物語の根幹と無関係なルートなので、サブヒロイン扱いで仕方ないっちゃ仕方ないのかもですが、それならいっそヒロインから外してリソースを他の4人に回すのもアリだったと思います。
一方、汐音は「石」という重大アイテムに関わるルートなのにも関わらず中身が無さ過ぎました。石も汐音が逆レイプに及ぶ言い訳に使われただけで余り意味のないものになっていましたし。後になぜ石がここにあるのかをちょろっと明かされたりはしましたけどシナリオ的には不遇と言っても差し支えないでしょう。良幼なじみだけにもったいない。
桜花は言うに及ばず、麗奈と雫はまずまず良いシナリオだったと思います。
麗奈について莉都とイメージが被る部分があると前述しましたが、それは決してネガティブなことばかりではありません。りっとん似ということは良相棒ヒロインということです。相棒ヒロイン大好き!な私としてはこれは嬉しい。放尿シーンもバッチリ完備していましたし麗奈は良いヒロインです。シナリオ面でも、主人公が失明する原因に関わる物語で読み応えもありました。このルートで助演を務める波多野美奈というキャラもかなり良かったです。序盤の印象はツンケンしてる感じですが心を開いてくれるとかなり可愛い。えっちいが無いのが惜しまれます。桜花ルートでも剣の腕前を披露する活躍がありますしなかなか美味しいキャラ。
雫ルートは学校の怪談調査からもう一つのキーアイテム「鏡」に迫る話。こちらもそれなりにしっかりとしたシナリオでまずまず。怪談と鏡が交わって引き起こされる悪夢は結構キツイ。主人公の叫びもよく分かる気がします。あれは、狂う。
その鏡もラストルートでさらに主人公に関わってきますし話の組み立てはさすが桐月さんと言えるでしょう。
桜花ルート~ラストシナリオ「花の野に咲くうたかたの」はこういう人外との交流ものとしては王道の、消える消えないといったゴタゴタが展開されますが桜花の存在、色の意味の秘密に一定の説得力を持たせていたのは良いと思います。その上で桜花が消えない選択を選べばグランドエンドと相成るわけですがこのへんの難度は高くないですね。
シナリオで気になったのは、主人公の精神年齢が高すぎはしないかということ。一応学園生なんですが私はどうも大学生位のイメージを持ち続けていました。全般的に桐月さんの描く主人公は「大人」なのですが…。今回無理に学園もの設定にする必要、あったのかな?
あと、フラグメント。あっぷりけ名物のフラグメントですが今回は取得してすぐに読んでおかないと???となる場面がチラホラ。例えば修平の妹美緒ちゃんはフラグメントで初登場なのですが途中でこれを読まずに話を進めると
初対面の幼女と仲良く談笑するハメになるのです。過去作では1ルート終了後にそのルートで得たフラグメントをまとめて読むというプレイスタイルだったのでちょっと戸惑いました。フラグメントはあくまでも断片で、
読まなくても大本のシナリオ進行に不都合無いのが理想だと思うのですが、如何に?
あと、個別に入ると他のヒロインが空気とまではいかないものの出番がだいぶ減ってしまうのが私としては残念な部分。やはり最後まで一致団結してことにあたって欲しいですね、こういうのは。
エロ面はいつもどおりですかね。濃くも薄くもない普通な感じ。ただ前述のように放尿(短いけど)もあるし全ヒロインに一応全裸エッチ完備されてるし悪くはないと思います。
麗奈の放尿や雫先輩のおぱんつ&局部ドアップといったフェチぃCGもありマニアックな嗜好にもそこそこ対応しています。
授業中の学校で全裸の桜花とHするのはなかなか興奮しました。
ついでですが、桜花が普通のおぱんつを履いていたのはちょっと残念でした。現代風のカッコの時はいいけど、せめて袴姿の時はノーパンか褌とかで差をつけて欲しかった感。まぁ些細なことです。
そして歌。
OPテーマ「華暦」には大変お世話になりました。私の大好きな和ロック!Ayumi.さんのパワフルなヴォーカルと和テイストな曲調で非常に良いです。現時点で今年のエロゲソング上位。これは本当にいいものだ。
ED曲も悪くないので特典にフル収録のサントラをつけたあっぷりけさんに大感謝ですよ。
プレイ前の絶大な期待値には及びませんでしたが、それでも非難されるほど悪いわけではない、地味な出来というのが率直なところ。汐音、涼子のシナリオの水準がもうちょっと上ならばシンセミアやコンチェルトノートに匹敵していたかもしれないと思うと残念です。
ただメインヒロイン力で言えば桜花は皆神さくや、神凪莉都らあっぷりけの誇る看板ヒロイン達に決して引けをとらないと思っています。むしろ主人公と知り合ってからの時間を考えれば、わずか一月たらずであの空気感を作れるというのは並大抵ではない。実は主人公が作り出していたとネタが割れたあとでもその感想は変わりません。桜花というヒロインに出会えただけでも、このはなののという作品を私は評価しますよ。